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仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)263号 判決

訴外高野吉匡が訴外本田卯市との間に別紙目録<省略>記載の家屋につき締結した代物弁済契約を取消す。

被控訴人は訴外高野吉匡に対し右家屋につき所有権移転登記手続を為すべし。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文第一、三、四項同旨及び「訴外高野吉匡が被控訴人との間に別紙目録記載の家屋について昭和二十七年六月二十八日締結した売買契約を取消す、右訴外人が前記家屋の売買契約を被控訴人との間に締結したのではなく、訴外本田卯市との間に代物弁済契約をしたのであれば、当該代物弁済契約を取消す、」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、

控訴代理人において、

一、控訴人は訴外高野吉匡(同人は昭和二十二年秋別紙目録記載の建物を建築所有しこれに居住して青果物仲買商をしていた)に対し昭和二十四年九月三日から昭和二十五年迄の間に林檎を販売しその代金合計額は金七万七千七百五十円に達したが同訴外人は控訴人の屡次の督促にも拘らずこれが支払をしなかつた。

二、控訴人と右高野との間に昭和二十五年九月三十日控訴人の右売掛代金債権担保のため同人所有に係る前記家屋を控訴人に譲渡し高野が同年十月二十日迄に右債務を弁済できないときは売買代金を金十一万円とし控訴人は前記債権額七万七千七百円を控除した残額金三万二千三百円を支払えば確定的にこれが所有権を取得するものとする旨の売買契約が成立したが、高野は右期日迄に右債務の弁済ができなかつたので控訴人は前記約定に基き本件家屋の所有権を取得することとなつた。

三、ところで高野吉匡は控訴人の所有権移転登記請求に対し同意しなかつたので控訴人は昭和二十七年五月二十九日右高野を相手どり福島地方裁判所に対して本件家屋の所有権移転登記請求の訴を提起し同年十一月十五日控訴人勝訴の判決を受けた。

四、被控訴人は右高野吉匡の妻の父の弟であり高野が本件家屋から転居後約二ケ月経て本件家屋に居住するに至り爾来今日に及んでいる。而して控訴人と高野間の前記本件家屋売買契約は本件家屋において居住者たる被控訴人立会の下に締結されたものであるばかりでなく、本件家屋の屋根瓦は焼瓦業者である控訴人が高野の依頼により瓦葺をしたところ、同人が瓦代金(一万円)を支払わないので被控訴人がこの債務を引受けたのであるが右代金七千円(控訴人において減額)の支払は毎月五百円宛の月賦払としたので控訴人は毎月末日被控訴人方にこれが取立に行きその際控訴人は被控訴人及びその妻に本件家屋は控訴人において買受けたものであることを話してあるので同人等はこのことを熟知しているものである。

五、高野吉匡は諸所に青果物の買掛金債務を生じその負債は巨額に達してこれが支払不能のためついに本件家屋から転居してその行方をくらますに至つたが、昭和二十六年三月十七日控訴人に対して「自分は福島県二本松町の某から甘藷一車を買つたがその代金の一部に充当するため金を貸して貰いたい」と嘘言を弄した控訴人から貸借名義の下に金三万二千円を騙取したほか本田茂富(本田卯市の実兄)その他に対する詐欺罪のため昭和二十七年五月二十九日福島地方裁判所において懲役一年七月の刑に処せられたことがあり、従つて控訴人は高野吉匡に対して右金三万二千円の損害賠償債権をも有するのである。

六、訴外本田卯市は高野吉匡の母の兄(母の実家)の四男であり同人乃至被控訴人が本件家屋の所有権を取得した当時同人等は控訴人が本件家屋を既に買受けていたこと及び控訴人が右高野から金員を詐取されたこと等を知つていたものである。

七、高野吉匡は前記の如く多数債権者に巨額の負債があり、本件家屋の所有権を右本田卯市乃至被控訴人に移転した当時本件家屋以外にはなんらの資産をも有しなかつたものであり、この事実を本田卯市と被控訴人とは知悉していたものである。

八、高野吉匡が右のような財産状態の下において本田又は被控訴人にその唯一の資産たる本件家屋の所有権を移転するが如きは債務者が一債権者と共謀してその一債権者のみに対し全財産をあげてこれが弁済に充当するものであつて正に詐害行為と云わなければならない。

九、高野吉匡から本件家屋の所有権の移転を受けたものが被控訴人でなく、その主張するように本田卯市であり、その移転の原因が仮に代物弁済であるとするならば本件家屋の時価は二十万円であるのにこれを九万円の債務のために代物弁済することは相当な価格を以てする不動産の処分とは云い得ないから詐害行為となるものである。

と従前の主張を訂正して陳述し、

被控訴代理人において、

一、控訴人の前記主張事実第一項乃至第三項中本件家屋は青果物仲買商であつた高野吉匡が建築したものであることは認めるがその階下八畳間一室、台所のうち流しの部分の造築、畳、建具、壁上塗り等は被控訴人がその出捐で施工したものである、その余の事実は不知。

二、同第四項中被控訴人が高野吉匡の妻の父の弟に高野が本件家屋から転居後本件家屋に居住して今日に至つていること、被控訴人が屋根瓦製造販売業者なる控訴人に対しその主張の瓦代金を支払つたことは認めるがその余の事実は否認する。

三、同第五項中高野吉匡が詐欺罪で処罰されたことは争わないがその他の事実は不知。

四、同第六項中本田卯市が高野吉匡の伯父の子であることは認めるがその余の事実は争う。

五、同第七項中高野吉匡が本件家屋以外に資産がないとの点は不知、その余の事実は争う。

六、同第八、九項はすべて争う。

と述べたほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第一号証、原審及び当審証人金子源太郎の証言、当審における控訴本人尋問の結果を綜合すれば、控訴人は昭和二十五年九月三十日別紙目録記載の家屋を訴外高野吉匡から買受ける契約をしたこと、この契約に基いて控訴人は右高野に対し金三万二千三百円の支払と引換に前記家屋の所有権移転登記手続を訴求しその旨の確定判決を得たことが認められる。

而して右家屋について昭和二十七年六月二十八日附で高野吉匡から被控訴人にその所有権移転登記手続がなされたことは当事者間に争のない処であり、控訴人は右高野の行為が債権者たる控訴人を害するいわゆる詐害行為であると主張するので以下これが理由ありや否について判断する。

先づ本件において控訴人の右高野に対する債権は如何なるものかというに、控訴人の主張に依れば同人は高野に対し(1) 前記本件家屋の引渡及び所有権移転登記請求権と(2) 控訴人が昭和二十六年三月中高野から騙取された金三万二千円の損害賠償請求権の二つの債権を有するというのであるが、右(1) の所有権移転請求債権を有することは前記認定のとおりであり、(2) の債権の存在は当審証人本田卯市の証言と当審における控訴本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。

ただ控訴人が前記高野の行為により害せられたと主張する債権は右二個の債権を併せていうものか否か必ずしも明かではないが弁論の全趣旨からみると専ら(1) の債権を指しているものとみるのが相当である。

ところで一般的にいつて特定物の引渡請求権を有する(金銭以外の物の給付を目的とする債権の)債権者が民法第四百二十四条に基く取消権を有しないことはもとよりのことであるが(同条の取消権は総債権者の共同担保たる債務者の財産の減少を防止するために総債権者の利益のために与えられたもので特定の債権者の保護を目的としたものではない)債務者の履行不能により右特定物の引渡請求権が損害賠償債権に変じた場合にはその債権者が右法条所定の取消権を行使し得ることは論を俟たないばかりでなく、然らざる場合でも債務者がその特定物をおいて他に資産を有しないに拘らずこれを処分したような場合にはこの引渡請求権者において右法条の取消権を有するものと解すべきである。

本件における控訴人の前記家屋に対する引渡請求権について考えてみると、控訴人が高野吉匡から本件家屋を買受ける以前既にこの家屋に対しては訴外本田卯市の右高野に対する金五万円の債権のために抵当権が設定されていたこと、及び高野がこの抵当権を除去するに足る資力を有しなかつたこと、更に高野の本田卯市に対する本件家屋所有権移転行為当時高野にはこの家屋をおいて他に資産が無かつたに拘らず代物弁済として本田に移転したものであること等は後記認定のとおりであるから結局高野は右代物弁済により控訴人に対する前記債務を履行することができなくなつたのであり控訴人は高野に対して右履行不能による損害賠償債権を有していたとみられるのである。仮に右損害賠償債権の態様が具体的に明確化していないとしても本件家屋は高野の右行為当時における同人所有の唯一の資産であつたのであるから何れにしても控訴人は一応民法第四百二十四条に定められた取消権者たり得るものということができる。

そこで次に右高野の行為が詐害行為となるか否かについて考える。

まづ本件家屋の所有権移転登記手続が被控訴人に対して為されるに至つた経過については当事者間に争があるので以下この点について按ずるに、成立に争のない甲第三号証、乙第五号証、原審及び当審証人本田卯市の証言(但し後記措信しない部分を除く)、当審における被控訴本人尋問の結果及びこれらによつて成立を認め得る乙第一乃至三号証を綜合すると、本件家屋には昭和二十四年十月二十五日訴外笹木与七のため同人の高野吉匡に対する金三万円の債権につき順位第一番抵当権が設定され、本田卯市亦同年十一月十日右高野に対する金五万円の債権のため順位第二番抵当権を設定していたが、本田は昭和二十五年二月八日右笹木から同人の有する前記債権及び抵当権の譲渡を受けたこと、本田卯市は昭和二十七年六月頃本件家屋につき前記債権と右債権に対する代物弁済としてその所有権を取得しその後間もなく右家屋を昭和二十五年三月頃からの同家屋居住者たる被控訴人に代金九万円で売渡したことが認められる。

即ち高野は本件家屋を本田卯市に対する前記債務の代物弁済として処分したのであるが、元来代物弁済は債務の本旨に従つた履行ではないから特定の債権者のために代物弁済をすることは一般債権者の共同担保たる債務者の財産を減少する危険が多く詐害行為となるおそれのあるものたるところ、公務所作成に係り真正に成立したものと認める甲第二号証、当審証人金子源太郎の証言によると債務者高野及び受益者たる本田卯市は本件家屋に対する前記控訴人の売買契約履行請求の訴が提起されるに至るや当時高野には本件家屋以外に見るべき資産も無く且つ数多の債務を負担していて到底完済の能力がなかつたに拘らずこれが右債権に基く執行により失われることをおそれて両人打合せの上当時少くとも十万円以上の価格をもつ本件家屋を八万円の本田の債権のため代物弁済をしたものであることが認められるから右本田のかゝる行為は正に詐害行為となるものと云うべく、原審及び当審証人本田卯市の証言中右認定に反する部分は措信できない。

そこで更に進んで本件家屋の転得者たる被控訴人が本件家屋を買受ける当時悪意であつたか否かについて審按するに、そもそも転得者の悪意とは受益者の悪意なることを転得当時転得者において知れることをいうものなるところ、被控訴人が本件家屋を本田から買受けた当時善意であつたことについては原審及び当審証人金子源太郎、本田卯市の証言、当審における被控訴本人尋問の結果はたやすく信用し難くその他乙各号証等被控訴人援用の証拠を以ては未だ被控訴人の善意であつたことを認めるに足らない。

以上の次第であるから高野吉匡と本田卯市間の本件家屋の代物弁済契約の取消及びこれが転得者たる被控訴人に対して前記行為の取消に因る原状回復として右家屋所有権移転登記手続の履行を求める控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

従つて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局不当であつて本件控訴は理由がある。

よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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